・働くことに生きがいを見つけたかった
これは現在30代半ばの女性である私が20代後半に突入した時の事。
生きがいを求めて転職した先の企業がブラック企業で、とんでもない目にあい後悔した話です。
もともと高校を卒業して勉強する気になれなかった私は、卒業後就職することに決めてとある中小企業の事務員として働き始めました。
残業はあっても1時間あるかないかが週に2~3日程度、仕事内容も難しくなくすぐになじむ事ができました。
これがどんなに幸せなことかわかっていなかった私は、特に問題もなく平凡な毎日を送るうちに「本当にこのままでいいのだろうか」と自問自答するようになりました。
仕事を定時で終えて家に帰り、家事を済ませ軽く自分の時間を過ごして寝る…これを繰り返す毎日。
休みの日には友人と出かけたり、家族と過ごしたりしてまた次の週を迎える。
平々凡々すぎて、私は「自分のやりたかったことはもっと他にあったのではないか」など余計なことを考えるようになっていきました。
つまり、とにかく卒業して何でもいいので就職したという後ろめたさがあったのだと思います。
同年代の大学へ進学した友人は、自分の夢や目標に向かって勉強したり課題やらレポートに追われる日々を過ごしていて、大変だと口にする割には私には輝いて見えたんだと思います。
普段社会人として過ごしている人にとっては「なんて幸せな職場なのに贅沢な!」と叱責しそうですが、土日祝は休日、平日は8時半~17時半までの勤務をしていた当時の私は「つまらない」と感じていたのです。
学生時代にやたらと抱えさせられた「将来の夢」というものを、仕事で追いかけるべきではないのかと思うようになったのです。
つまり、仕事を生きがいにして毎日をもう少し鮮やかにしたかったんだと思います。
・苦しい仕事ほどやりがいがあると勘違い
そこで私は自分が昔密かに抱いていた夢である、料理人について考えるようになりました。
小学生の時に家族で食べた洋食屋のオムライスがとても美味しくて忘れられず、家族との思い出補正もあるとは思いますが「いつかこんな料理を作っていろんな人に食べてもらいたい」と思った時期があったのです。
とは言っても事務職を転職していきなり知識も経験もない飲食業を始めようなんて無理な話なので、一旦飲食店での勤務を経験していちから勉強しようかと思ったのです。
つまり、修行ですね。
働きながら、飲食店経営に必要なスキルや資格を取っていこうと考えたのです。
今思えば、それならアルバイトでもいいから少し経験するくらいに留めれば良かったのです。
条件の良い事務職を辞めてまで無謀に挑戦なんてするんじゃありませんでした。
そこまで考えられなかった私は、事務職を退職。
およそ3年ほどの勤務でした。
とある飲食チェーンの店長候補という求人を見つけ、応募し合格することができました。
その時には転職することに夢中で深くは考えませんでしたがその時の面接の時点でいくつかおかしいと気付くべきでした。
そもそも面接のときに、「飲食業界はお客様ありきの商売なので、残業は多いけど大丈夫か」といった趣旨の質問をされた時です。
まだあなたはこれから採用して店長になるべく勉強をしてもらうので、「1日に指定した時間を超える残業は認められない」ということを説明されたのです。
私は勝手に頭の中で、「残業しすぎないようにしてくれということかな」と考えていましたが、そうではなくて「1日2時間以上の残業は、サービス残業としてそれ以上は給与の計算外」という意味でした。
3時間残業したとしたら、2時間分は残業代が出ても残り1時間はサービス残業扱いということです。
とにかく私は飲食店での経験を積みたいことに夢中になっていたことと、勘違いしていたということもあり「問題ない」と答えてしまい、無事その会社に転職が決まったのです。
それからは地獄の日々でした。
マニュアルが一応あるはずなのに、まともな研修を設けてもらえるわけではなくいきなり現場に立たされて見て覚えろ状態でした。
調理の仕方、盛り付け方、提供の仕方等すべてその場で簡単に説明されるだけ。
手際の悪さに怒鳴られることは当たり前でした。
習っていないことをわからないというと、「わからないじゃなくて教えてくださいだろ!」とキッチンだろうがホールでお客様の目があるところだろうが叱責されました。
店長になったら全部やらなきゃいけないのだから、と朝9時から出勤させられ帰りは夜23時をまわることがほとんど。
お店の掃除や調理、片付け、バイトやパートタイマーのシフト作成にクレーム対応。
なんでもさせられました。
店長候補だから、ということを建前に何でも屋のような扱いをされていました。
その時私を店長候補として雇い、研修(といっても叱責だけ)をしていたエリアマネージャーは散々日中怒った後、帰る間際にいつも「これがお客様対応というものだ。1度来ていただいたお客様に少しでも不快な思いをされるとリピーターとして来店してもらえなくなる。お客様の満足を常に考え、動けるようになるのが君の目標だよ。よくやっていると思うよ」と褒めたり慰めたりしてくれるのです。
きっとこれも当時の私は、「私が至らないからこの人はあえて厳しく接してくれているんだ」と思い込んでいたのでしょう。
まともに仕事を教えてくれず八つ当たりのように怒鳴られているだけなのに、少し褒められただけで「認めてもらえたかもしれない」という気持ちになり、自分がもっと頑張ればいいのだといつのまにか自分を追い込んでいたのです。
そうやっていつの間にか、苦しい・きついと思っていたことが、「これはいつか実になる、今は苦しくてもこれがやりがいに繋がるんだ」とどんどん勘違いしていったのです。
・このような勤務体系の会社ばかりではない
それからも、朝礼だといって朝7時に集合させられ大きな声で社訓を繰り返し言わされたり、店長になるための修行だといって1日12時間労働が当たり前になっていきました。
ほぼ自分の時間は取れず、毎日の食事や睡眠も十分ではない状態が続きとうとう体を壊してしまいました。
立ち眩みからそのままお店で倒れてしまい、救急車で運ばれて気づいたら病院のベッドの上でした。
涙を流しながら私を見守る母を横目に見ながら、目が覚めた私が最初に考えたのは「お店のシフト大丈夫だったかな」ということでした。
だいぶ重症です(笑)
それから母や友人に諭されて、今後のためだからといってサービス残業をさせられたり、お客様のためだからといって罵倒されるのは普通の仕事ではない、つまりそれはやりがいでも何でもなくただのブラック企業なのだと気づかされた私は、退職を決意しました。
およそ2年半の勤務でした。
もちろん、飲食業界はブラックが多いとは言っても私が勤めていたような勤務体系ばかりではないと思います。
福利厚生や勤務体系がしっかりしている会社だってもちろんあります。
でも、私の経験上何にでも「お客様のためだ」「やりがいだ」などと煽って、払うべき給料を払わないのはただのブラック企業です。
特にそういう煽りをして社員を食いつぶそうとするブラック企業は、仕事にやりがいを求めている人を利用する節があります。
「この頑張りが!いまのつらさが!その苦しさが後で成功する秘訣なんです」などといって、必要以上の残業を求めてこられたら疑った方がいいと思います。
仕事のやりがいは精神的なものだけではありません。
働いた時間に正当な対価を頂くこと。
それがやりがいに繋がるものだと気づけたことが、ブラック企業を経験して得られた唯一の良かった点です。