まったくの異業種から転職して製菓の仕事に就きました。
それまでは会社勤めのサラリーマンでいわゆる営業企画みたいな感じでしたから、急に職人の世界に飛び込むことになったわけですが、さすがに転職当初は思うように行かないことが多くかなり辛い日々が待っていました。
ご存知の通りパティシエやパン職人の世界は早朝からの仕事、時間に慣れるのはたいへんでした。
まだ比較すればパティシエの方がマシなのでしょうか、パンは夜中もだったりしますから早朝と言うより夜勤に近い環境だったりしますね。
それでも9時出勤でよかった前の仕事から3時間以上も早いスタートは、朝寝坊しないかという不安からくるストレスも結構なもので、途中不眠症になったりで体への負担は思っていた以上でした。
職場によっては8時間労働と決まってたりして残業しないでいいところもあるようですが、私の職場はバリバリのブラックの個人店舗。
朝6時から夜は終電、いや繁忙期には徹夜なんてことも当たり前にありました。
それに加えシェフが結構気の荒い人でしたから、入っては辞めて入っては辞めてでいつも人手不足でしたね。
まあ業界あるあるですので驚きはしませんでしたが、月に3人急にいなくなったとかもありましたね。
ただ不思議に思ったことがありました。
転職する頃描いていたイメージは、きっと将来世界で有名なパティシエになりたいとか、自分でかっこいい店出したいとか、大きな夢を持ってる若者が働きに来る職場なんだと思ってたんですが、確かに何人かそうでしたが他のスタッフはただ好きなお菓子を作っていられれば幸せ、みたいなあまり欲のない子が多かった。
そういう子達はあまり厳し過ぎるとやっぱりついて来れなくなるんですね。
しかも専門学校卒とかで社会経験もなく入ってくる子がほとんどですから、基本的に社会人としてのコミュニケーション能力に欠けるというか、挨拶もろくにできないとかいてちょっとカルチャーショックを受けました。
経験や知識なく入った僕は最初はほとんど雑用ばかり、それでも好きなお菓子の世界で働けることだけが励みでなんとか持ち堪えました。
2年目あたりからいろいろレパートリーも増えていった気がしますが、それでも他に比べて過酷な仕事だとは感じましたね。
あるお店のパティシエと話したら、そのお店も1日14時間働くことがまず基本みたいなこと言ってましたので、個人店はだいたいそんなイメージなんだと思います。
たぶん8時間程度の仕事ではたいして腕も磨かれないんじゃないでしょうか。
そういう労働環境が当たり前と思えるか、そこで道は分かれていくように思います。
やっぱり世界レベルの人たちって寝る時間も惜しんでやってますからね。
そんな人たちがいっぱいいるのに8時間労働で対抗するのは無茶なんだと思いました。
さらにびっくりするほど給料も安い。
じゃあどうやってそれで生活していけるんだと思うんですが、何しろ遊ぶ暇なんてないですからお金使うこともそんなになくて、結局なんとか生活できてしまうという不思議と辻褄が合う結果に。
もちろんそれがいいことだとは思いません。
やっぱり労働に見合っただけの収入がある方が健全かと思いますが。
5年ぐらいパティシエをやった後、料理に興味が湧いてレストランに移りました。
目的は料理の勉強でしたが、パティシエやってたということでなんだかんだでデザートを任されることが多かったですね。
料理の次にパンの世界に。
関連している業界なのにやっぱりそれぞれ専門知識がいるんですね。
だから環境の変化に伴いそれなりに苦労もありました。
ただ続けていながら気づいたことがあります。
最初にパティシエ業務を経験したおかげで、細かい作業がそれほど苦にならないんですね。
料理の時は盛り付けとか気を使います。
そういう時はパティシエ当時の仕事が役に立ちました。
早く綺麗に仕上げるという点では料理人よりパティシエの方に分があります。
パンの仕事でもそれはありました。
パンも仕上げでいろいろ手を加えるものがありますので、基本的にはケーキの仕上げと同じ要領。
むしろケーキほど細かくないですからパン職人たちより僕の方が綺麗でした。
あんなに辛かったお菓子の仕事、でもその経験があったからこそその後の仕事ではそれ以上に辛く感じることはあまりなかったような気がします。
もちろんあまりのぼせ上がると人間関係にヒビが入ったりしますから、やっぱり基本は謙虚に向かい合うという姿勢が必要かと思いますが、余計なことを言わなければ周囲はちゃんと信頼してくれましたね。
パティシエというポジションが料理の世界でそこまで高く評価されてるわけでもないんですが、今後少しづつ変わっていくのかもしれません。
パン屋も同じで、パティシエ経験のあるパン職人のお店が評判を呼んで人気店になんて割とよく聞く話です。
まあ一人でなんでもできるわけでもないので、一緒に働く人たちとの相性もあるんですが、食の世界で働く上でパティシエを経験しておくっていうのは一つの武器になるのかもしれません。