①最初は理解ある優しい母親だった
新学期が始まり、Aさんの担任になった私。
昨年は、男性担任がAさんを受け持っていました。
Aさんは、何でも器用に出来る子でしたが、母親の過度な期待に応えられない事に重圧を感じてあまり自分の意見を表に出さない子でした。
友だち関係の中では、自分の意見を強く主張する為、友だちとはあまりうまくいかずに悩む場面も時折見られました。
自分に自信を持っている子で、少し友だちを見下してしまうような素振りが見られることや、時折嘘をつく癖がある事で、周囲の子からすると気に入らない事があったようです。
Aさんの母親は、シングルマザーでしたが、行事などにも積極的に参加してくれ、個人面談等の場では、新任の私に対してもとても気さくに話しかけてくれ、「頑張ってね。色々言ってくるお母さんもいるけど気にしないで。」等と優しく見守ってくれる方でした。
とても明るくはきはきと話す方で、行事で保護者が集まり、懇談会の場面等でみんなが集まる時にも、率先してクラスを良くしていこうと意見を出してくれたり、他の保護者に対しても意見を求めて、まとめ役のような事を引き受けてくれるような方でした。
Aさんに関しては、学校での友だちにしっかりと意見をする姿とは真逆で、割と、おとなしくて自分の意見を押し殺してしまうようなタイプだと心配をしているようでした。
その為、機会がある時はなるべくAさんの学校での様子を小まめに伝えるようにしていました。
②些細な事をきっかけに母親の態度が急変した
数か月が経ち、少しずつAさんの嘘をつく癖が友だちにも指摘される事が多くなり、本人も家庭内で、学校でいじめられているというような内容を話すようになったようです。
Aさんはクラス内に特定の仲良しの子が1人いましたが、他のグループの子にも自分に興味を持ってほしいと感じていたようで、積極的に話かけていましたが、嘘が大きくなってしまったり、物言いが強かったりと思い通りに友だち関係を作れていないようでした。
周囲からすると明らかに嘘と感じてしまう内容ですが、本人は真剣で、全く嘘をついているという意識はないようでした。
そのことを家庭では、自分を主体に話していたようです。
その頃から、母親からは「今日は帰ってきてこんな話をしているが、どういう事か説明をしてほしい。」と頻繁に連絡が来るようになりました。
そんなある日、Aさんが新しく買った消しゴムが持って来た初日になくなるという事件がありました。
みんなで探しましたが見つからず、Aさんには家に帰ったら自分で今日の出来事を話すように伝えました。
Aさんは以前から身の回りの事に関して少しだらしない面があり、なくし物をよくしました。
しかし、探してみるとポケットの中から出てくるといった事が頻繁にあった為、「次回からは片付けの際に十分注意しようね。」という事で終わりました。
しかしそれを聞いた母親は自分の子がいじめられて、私物を隠されたのだと思い込み、怒って電話をしてくるなど、態度が急変することが多くなりました。
その後も、子どもの話を聞いて頻繁に電話をかけてくることが多く、些細な事をきっかけにどんな事に対してもクレームをつけてくるようになりました。
自分の子についての心配をするだけならともかく、周りの子の家庭の事情などについてもクレームをつけてくる事もありました。
その時の様子を思い返すと、とにかく何に怒っているのか分らなくなってしまう位、色々な事に一つ一つクレームをつけてきているという印象でした。
学校に直接来て話が聞きたいという事もありました。
わざわざ、私ではなく前年度に受け持っていた担任の所へ行って、こんな事があったから聞いてほしいと赴くような事もあり、どんどんエスカレートしていったように思います。
前年度の担任に話すと気持ちが落ち着くようで、自分の行動を振り返って「心配し過ぎてしまって申し訳ない」というようなことを話してくれました。
もっと自分の子の様子を良く見てほしい、担任はきちんと自分の子の様子を見てくれているのか?という不安な気持ちの表れだったようです。
③プライベートな事情で気持ちが乱れていた母親
後から分かった事ですが、母親がクレームを頻繁に言ってきたり、些細な事に敏感に反応してしまっていた時期には、家庭内の事情があったようです。
Aさんには中学生になる兄がいました。
その兄が、その時期にちょうど学校で嫌な事が続いた事をきっかけに登校拒否をしていたようです。
その事で、毎日母親と兄との喧嘩が続いていたという事です。
同じ時期にAさんから学校でいじめられているというような話を聞かされた事で心配になり、学校へのクレームが続いたようです。
Aさん自身も家庭内の母親と兄の様子を見ていて、不安を募らせ、自分をもっと見てほしくて嘘をついたり、母親に心配してほしくていじめられている等と話していたのだと思います。
兄の学校での状況が落ち着いてきた事で、母親の気持ちも落ちつき、Aさんへの過剰な心配も落ちつきました。