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報道フロアのとある1日「真実を報道する」とは? 

投稿日:2021年9月23日 更新日:

私は今、テレビのディレクターをしています。

ADだった頃、様々な番組に参加する中で、派遣業務として、あるテレビ局の報道フロアに派遣された時の実情をお話したいと思います。

 

【ADに自分のデスクは用意されていない 出社1日目の衝撃】

これは民放各局すべてがそうとは限りませんが、私が派遣された報道フロアにはADに自分のデスクというものが存在しませんでした。

TV業界数多く番組を経験しても、さすがにそんな事態に出くわしたのは初めてだったので、驚いたのを覚えています。

出社1日目。

デスクがないことに驚きながら、何をしていいのかもわからずにいると、記者?さんらしき人から「おいAD!何ボーっと突っ立ってんだよ!!」と突然言われ、あまりの世界の違いに愕然としました。

その後、ちゃんとチーフADに挨拶をし、いろいろ段取りやワークフローを教えていただけたのですが、

「やばいところに来てしまったな…デスクもないし」

と感じたのが第一印象でした。

 

【仕事は自分で見つけろ!!!】

この業界、ADだと基本的にディレクターについて仕事をするので、よくディレクターに「次何かやることありますか?」と聞くのはよくあることというか、普通のことでした。

しかし、報道フロアでその概念は覆されます。

ディレクターに「何か次やることはありますか?」と聞いた瞬間、

「んなもん、てめえで見つけろ!!!」

と報道フロア内に響き渡る大声で怒鳴られたのが、派遣されてから3日目とかぐらいの出来事でした。

ディレクターは社会部の記者で、風貌やオーラもいわゆる8●3みたいな方でした。

社会部はそういう方々とやり取りする部署なので、今思えば、あれが普通の世界なのだなと思います。

【報道フロアの1日】

報道フロア・デイリーニュース(夕方OA)の1日は次のようになります。

9:00 出社・全体会議

出社時間は絶対厳守。

5分でも遅れようものなら、ADたちから白い目で見られるようになり、だんだんと信頼を失っていきます。

9:00から構成作家や局員のチーフ・プロデューサー、アナウンサーも含めて、報道フロア全スタッフが一堂に会し、その日のニューストピックを会議する「全体会議」が開催されます。

「今日の朝までに○○大統領がこんなことをツイート」

「あの殺人事件の公判が今日○○時から地裁である」

「今日の最高気温が何度になる予定だから気象ネタを入れよう」

「今日はほとんど台風関連のニュースでいく」

などなど、その日の夕方ニュースラインナップが10時までに決まります。

そして各ネタにディレクターが割り振られ、それをもとにチーフADが各ネタにつくADを選び、シフト表が10時に出るのです。

【情報が命】の報道ではたった5分でも聞いていないだけで、その日1日がどうなるか、わからなくなってしまう世界です。

10:00 その日の担当ネタ決定。ディレクターに挨拶

ネタが決まると、担当ディレクターに挨拶。

情報のリサーチや、取材の方針を決め、取材開始。

11:00 片っ端から電話をかけまくる

「この後13時とかから撮影させてもらえないか?」

という今冷静になればトンデモテレフォンを取材OKの店や担当者にかけまくります。

12:00 撮影部・車両部にロケ申請

「このあと12:30に局出ます」など撮影申請書類を報道フロア内の車両部・撮影部に申請。

ネタと撮影項目をカメラマンに伝えます。

13:00 ロケに出る

ここまで聞いて「いや頭おかしいでしょ昼飯は?」

などお思いの方もいると思います。

ちゃんとディレクターたちからは「お昼食べてきな!」「ちゃんと食べてる?」などなど気をつかってくれる人もいました。

ただぶっちゃけそんな時間はないです。

だって13:00とかにはロケで現場行かなきゃいけないんだもん。

頑張って自らの処理速度を上げれば、12:00~12:30くらいなら社内のコンビニや売店で軽食を買って食べることはできますが、それに慣れるまで、基本私は、昼飯なんて食べている場合ではありませんでした。

13:00 その日のネタの編集マンが一斉に決定

「はい、破綻してるネ!!!」とお思いの方、ご安心ください。

報道では、1つのネタにつき、ロケに出るディレクターと局に残ってニュース原稿を書く、書き手ディレクターと2人以上ディレクターが存在するのです。

ロケについていくADと、局で書き手ディレクターを補佐するADとADも2人以上1ネタにつきます。

日によってシフトは違うので、私はロケについていく方が好きでした。

ここからは例として、ロケ先を「コーヒーショップ」の時として話してみましょう。

ネタは「全国で猛暑日続出!コーヒーの売れ行きに変化は?」とします。

13:00に取材に行く頃には、書き手のディレクターが書いた台本がロケ先のディレクターに送られ、ロケ先のディレクターはその流れをできるだけ守った内容の取材をします。

客のインタビューでも「アイスコーヒー、今日もう3杯目っすね」

「暑いけどアイスコーヒー飲んだらお腹こわすんで私はホットです」

みたいな仮の文言が書いてあり、それに沿う内容のインタビューを引き出します。

またその日のホットコーヒーとアイスコーヒーの売れ行きや1か月前と比べて、

どれぐらい増えた?減った?などのデータ集めもしっかり報告します。

※決してやらせではなく、台本に沿う内容で面白いものを引き出す質問やリアクションをする。

これがディレクターの腕の見せ所なのです。

14:30~16:00 撮影した映像を局に伝送

ロケ隊は、撮影した映像素材を局のシステムサーバーに伝送します。

撮影時間が長いものの場合、

「●分○○秒くらいで長い茶髪女性が使えること言ってます」

などなど詳細情報を書き手ディレクター、書き手ADにLINEなどで報告。

編集時間をできるだけ効率よく削減していきます。

13:00~16:50 書き手と編集マンが編集

書き手ディレクターが書いたことを元に編集マンが映像をはめていく作業です。

ロケしている映像も、撮ったそばから大量に送られてくるので、局内ADが編集マンやディレクターに素材のありかを逐一報告します。

「サーバー上の○○番に客インタきました!」などなど。

編集の細かい内容については割愛しますが、局内も局内で怒涛の動きをし、ロケはロケで書き手ディレクターの台本に沿う内容を撮るためにてんやわんやなのです。

16:50 放送開始~19:00

ロケ部隊は取材終了後、局に戻って編集を手伝います。

大体書き手ディレクターが書いた台本の後半部分。

CM明けからのVTRとかをつなぎ始めます。

放送が始まってからは、ADもDも構成作家もプロデューサーも報道フロア全体がもう戦場でした。

罵声は飛び交い、誰が誰に対して何を叫んでいるのかもよくわからない状態。

その最中に地震でも起きようものならもう大変です。

予定されていたラインナップはすべて吹っ飛び、緊急体制に移行します。

19:00放送終了~その日の反省会議

生放送が終われば、鬼の形相だったみなさんも普通の温厚な人々に戻ります。

次の日のニュースで必要な情報やリサーチをする人もいれば、何もなければそのまま帰る人もいます。

20時から21時には大体みなさん帰られています。

 

【真実を報道するとは?】

報道フロアの1日をお伝えしましたが、まだまだ伝えきれないことばかりがあります。

ドラマチックな人々が数多くおり、ドラマチックな日々が数多くありました。

しかし、ここで伝えたいのは「真実を報道する」ということが今の報道では本当にできているのか、非常に疑問に感じたのが実際に働いた自分の感想です。

書き手ディレクターが書いた内容に即してロケに行ったディレクターが急いでそれに即した内容を撮る。

もちろんやらせは問題になるので、嘘は書きません。書き手ディレクターも調べに調べた上で真実の情報を書きます。

しかし、そうして出来上がる情報は、【真実】を寄せ集めて「切り貼り」をした「新しい」真実です。

そこには作家のストーリーテリングの能力も相まって、「新たな真実」として日々番組が構築されていきます。

ある人はそれを「演出」と呼びます。

ある人はそれを「やらせ」と言います。

ある人はそれを「デタラメ」と言います。

メディアのフェイクニュースが取り上げられて叩かれているのが日々話題です。

私個人の意見としては、日々の報道のニュースが「真実を報道する」システムにはなっていないと思います。

報道する側に事実を咀嚼・分析する時間がないからです。

突き詰めていくと、報道の人は「真実を報道する」ことはできないのでしょうか?

時間の効率化を求めすぎたメディアは、そのことに気づくことができるのでしょうか?

同じ業界に生きる者として、疑問を感じた瞬間でした。

 

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