『ブラックだったこと』
ワンマン経営で、すべて社長の思いのままでした。
社長の書いた社訓の本があり、毎日の朝礼で1人1ページ交代で読むのはかわいいほう。
会社がワンフロアなので社員すべてを見渡せる状況にあり、必ず一日に一人は社長に怒鳴られていました。
役員クラスの人間はみな社長を崇拝しており、ある種、宗教のようでした。
入信できなければ、会社での立場はありません。
社長に気に入られるかどうかがすべてで、私の同期の女子はとてもうまくやっていました。
新入社員は入社前にビジネス本を渡され、入社してから感想文を提出させられます。
私は真面目に読んで、この本に書いてあることは勉強になるが、自分の考えとは少し違う、といったようなことを書きました。
まだ会社のことを知らず、ただ自分の気持ちに正直に書いたのですが、それがいけませんでした。
その本の批判をするなど、言語道断だったのです。
返却された感想文に社長の印が押されていたのですが、同期女子のレポートにだけ印が5つも押され、社長が「よく書けている!」とベタ褒め。
何のことはない、その本の内容をとにかく称賛してあるだけの感想文に対して、です。
もちろん、どの会社でも上司の意図をくみ取り、それに従うことは大事なことです。
しかし、私が新卒で入社した会社は、自分の意見など消して、とにかく社長に心酔すること。
これ以外にありませんでした。
『辞めたくなったこと』
先述した同期女子は、社長のお気に入りになりました。
社長は、最初のボーナスにも金額で差をつけました。
研修など私は真面目にこなして、社内試験もその子より成績が良かったのですが、まさか入社して初めてのボーナスでそんなことをするとは思いませんでした。
それも、私の目の前で社長がその同期女子に、「君のは〇〇万円だよ」と言うのです。
自分のボーナスに対して、6~7万円は高かったように記憶しています。
年末の社員旅行でも、顕著でした。
お酒の席での立ち回りが上手なこともあり、記念撮影でも同期の女子は社長の隣を独占です。
年が明けた頃から、同期女子は徐々に、私のことを無視するようになりました。
話しかけても目も合わせようとせず、こんな環境ではもう仕事を続けることはできないと思いました。
ちょうど入社して1年、退社を決意しました。
『唯一の救われたできごと』
同僚の一つ上の先輩女性は、本当に良くしてくれました。
仕事の教え方もとても丁寧で、私がいつもつまづくところでは「こうすればいいよ」と改善に努めてくれました。
一番初めに辞めることを相談したのも、同期ではなくその先輩でした。
もう先輩は察してくれていて、「私が会社に辞めることを伝えてあげるから、何もしなくていいよ」と言ってくれました。
そこまで甘えるわけにはいかないと思ったのですが、先輩は逆に私の辞意を自分の責任とまで考えていたようで、すぐに上司に報告してくれました。
本当に感謝してもしきれないくらい、ありがたいことでした。
『辞める直前』
先輩が上司に報告してくれたことにより、その上司から形だけの「引き止め」がありました。
辞める意思が固いことを確認した上司は、こう言いました。
「次年度の新入社員の入社日前に、退社日を決めてほしい。先輩がすぐに辞めるのを見るのはショックだから」
その言葉に衝撃を受けました。
辞めていく人間なんかよりも、これからの人間が大事というのはわかります。
しかし、出勤時間前に私は欠かさず社内清掃を行うなど、自分なりに会社に尽くしてきたつもりでいました。
最後の最後まで、自分の気持ちを打ち砕かれた思いをしました。
『辞めて良かったこと』
退社の日まで、本当に指折り数えました。
あと3日、あと2日、あと1日……
当日、会社を後にしたときの開放感といったら、おそらくもう人生に2度はないと思います。
「せいせいした」という言葉が何のためらいもなく口をつきました。
うらみつらみはたくさんあるけど、今となっては社会の闇を早い段階で見せてもらったおかげで、いろいろと耐性がついたようにも思います。(というか、そう思わずにはやってられません)
同期女子ほどではなくとも上司に対してうまく立ち回れるようになりましたし、だいたいの出来事には対処できるようになったように思います。
『その後の仕事』
最初の会社を辞めたのち、次は大手の不動産販売会社に事務職として就職しました。
結婚して退社するまでの3年弱、この会社でも紆余曲折はありましたが、順風満帆とまではいかなくとも、つつがなく業務を終えることができました。
今は子供もいるので社員ではなくアルバイトとして設計会社のサポートをしていますが、これまでのことを教訓に、楽しく仕事をしています。
何よりも、仕事に対して正当な評価があれば、人は多少の困難は乗り越えられます。
理不尽なことがまかり通るのはこの社会の常かもしれないですが、自分だけでも他人に対しては誠実でありたいと思う日々です。