工場・製造・修理・検査の体験談

歴史ある食品工場は仕事も人間関係も大変だなあ

投稿日:2021年2月9日 更新日:

行ってみたら超アナログ

以前しばらく勤務した食品工場はスタッフが10人弱の小さい工場でした。

扱う商材は製菓関連が中心、ケーキや菓子の仕事をしたかったので求人内容を見て決めました。

勤務初日行ってみてちょっと戸惑いました。

テレビなどでよくAI化が進んだ労働環境を見聞きしてたので多かれ少なかれそういう部分もあるんだろうと想像してましたが、行ってみるととんでもなくアナログ、スタッフ全員で全力肉体労働です。

今時の若い人材はあまり集まらないようで大半は長年勤務してきたベテランさんたち、でも彼らがまた年齢の割によく働くんですね。

朝早くから夜遅くまで体を休めることもなくずっと立ち仕事、毎日毎日同じような仕事を繰り返すわけですから根気がないととてもじゃないけど務まりません。

私は当時30代で中では若い方でしたが、ついていくのが精一杯でした。

でも若い分可愛がってももらえましたから決して悪いことばかりではありませんでしたね。

 

古い設備

今の時代大手の食品工場はほとんど機械化、人の仕事といえばその設備の管理だったりします。

なぜその工場が昔ながらのやり方だったかというと、まず売り上げが少ないのが理由でした。

最新機器を導入できるほど利益が出ていない、先行投資してもうまくいくかどうかわからないという判断だったようです。

確かに取引先はどちらかというと小口の企業、他が嫌がるような商材のOEMだとかが多かったです。

それゆえ業績が安定しないんですね。

もっとスピーディに生産できて儲けてる会社に行けば給料も全然いいのになあと思いつつ、入ったばかりでやめるにやめられないまま勤務は続きました。

でも途中で少し考え方が変わりました。

もしかしたらこの古い設備でないとできない仕事なんじゃないか?

よくよく考えてみるとベテラン親父たちの仕事は実に正確、経歴を聞いてみると結構有名な菓子屋や料理店の修行経験があったりします。

若い頃培った技術が実は相当レベルが高いものだったんですね。

だから最新機器を導入するよりも古い設備で彼らの技術を生かした方が他との差別化が図れるというのが大きな理由だったのかもしれません。

私は工場勤務の前に少し街のケーキ屋にいたことがありますが、比較しても見劣りすることなく、むしろ仕事の内容によっては工場の親父連中の方が優れてる部分もあったように感じました。

急な交代

いろいろ不満はあったものの勉強にもなってる実感もありしばらくこのままと思っていた矢先、急に状況が一変する出来事がありました。

社長交代です。

それなりに歴史ある工場だとどうしてもついてまわる話ですから仕方ないですが、社長が変わると経営方針が一気に変わることがあります。

専務だった御子息が社長に。

彼はけして悪い人ではありませんでしたが長くいるベテランたちとはソリが合わない感じがありました。

先を見据えて改革をしたい新社長と親父連中との間に軋轢が生まれ、職場の空気も少しづつ暗くなっていきました。

どちらが正しかったのか、それは今でもわかりません。

数年後を考えたときにこのままの状況でやっていけるか不安な新社長、経営者として当然向き合わないといけないテーマに違いありません。

古いスタッフの後釜も育てる必要が出てきますしね。

それでなくても人材が足りない業界ですから当然な悩みでした。

 

社長の出した結論

歳が近かったこともあり休憩室で愚痴を聞かされたりした私は、なんともいたたまれない気持ちで聞いていました。

社長の気持ちはよく分かります。

もし私が彼の立場でも同じように考えただろうと思いました。

でも親父連中の仕事の値打ちも評価されるべきで、彼らのことを否定する気にもなりませんでした。

結果的にそれから一年後私は退社し他の仕事に転職したのですが、さらにその一年後工場は閉めることになりました。

自社工場は売却し新たに新事業として直営の製菓店を展開する、それが社長の新しいプランだったようです。

古い職人にも声を掛けたようですが賛同は得られずもの別れに終わり、若いスタッフを募って出直しということになったようです。

まあ仕方ないですね。

もし在籍中にその話があれば私は残ったかもしれませんが、やっぱりベテラン勢に気を使ってやめたかもしれません。

新旧交代のタイミングって何かとたいへんなものなんですね。

あれから数年経ちますがまだお店は頑張って営業してるようです。

たまに顔を出すと社長も売り場に立ってたりして、彼なりに企業努力はしているようです。

先日ちょっとだけ嬉しくなる話が聞けました。

工場解散後音沙汰なかったベテラン勢のうち何人か店に来てくれたようです。

なかなか品質が上がらない現状を嘆いた社長を見かねてか、彼らは若いスタッフに時間を割いてレクチャーしてくれたんだとか。

現場の作業の大変さを知らない社長の説明よりは遥かに説得力のある職人の指導、若いスタッフは喜んで聞いていたそうです。

結局のところ、いつの時代にも人情って必要なんだろうなと思いました。

どこかマニュアル的な仕事だと思われがちな工場の仕事ですが、そんな仕事だからこそ人の繋がりって案外新鮮だったりするものです。

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